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弁護士法人柴田・中川法律特許事務所

愛知県豊橋市・静岡県浜松市の弁護士11名・弁理士2名が所属する法律特許事務所

生命保険と相続

2013/11/29 金曜日 18:50

【はじめに】
 個人年金保険を含めれば、およそ9割の世帯が加入していると言われる生命保険。
 実際、多くの方が生命保険契約を締結しておられると思います。
 では、実際に生命保険契約の被保険者が亡くなった場合に、遺族はどのように死亡保険金を取得するのでしょうか。
 今回は、生命保険と相続の関係についてご説明します。
【事例①】
 夫Xには、妻Aと子Bがいます。Xは、自らを被保険者とし、死亡保険金を2500万円とする生命保険契約を締結し、
 その受取人をAに指定しました。Xが死亡した場合、Bは、Aに対して、
 死亡保険金の半額1250万円を請求できるのでしょうか。
 この事例のように、保険契約者(X)が相続人中の特定の者(A)を保険金受取人と指定した場合について、
 最高裁判所昭和40年2月2日判決は、次のように判示しました。
  「保険金受取人として……相続人たるべき個人を特に指定した場合には、
  右請求権は、保険契約の効力発生と同時に右相続人の固有財産となり、
  被保険者(兼保険契約者)の遺産より離脱している」
 最高裁は、特定の者が保険金受取人として指定された場合には、
 死亡保険金は保険金受取人の財産であって、相続財産ではないと判示しました。
 したがって、【事例①】の場合では、死亡保険金2500万円は、保険金受取人であるAの財産ですので、
 Bの請求は認められません(ただし、後述の「特別受益」に注意する必要があります)。
【事例②】
 事例①において、Xが保険金受取人を被保険者(X)の「相続人」と指定していた場合、
 死亡保険金はどのように扱われるのでしょうか。
 先ほどの昭和40年最高裁判決に基づけば、保険金受取人が「相続人」と指定された場合、
 死亡保険金は、相続人の固有の財産となります。
 したがって、【事例②】においては、死亡保険金2500万円はAとBの固有の財産となり、
 相続の対象とはなりません。
 しかし、AとBの固有の財産となるといっても、
 具体的にAとBは、死亡保険金をいくらずつ取得するのでしょうか。
 この保険金受取人を被保険者の「相続人」と指定した場合について、
 最高裁判所平成6年7月18日判決は、次のように判示しています。
  「保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の『相続人』と指定した場合は、
 特段の事情のない限り、右指定には、相続人が保険金を受け取るべき権利の割合を
 相続分の割合によるとする旨の指定も含まれているものと解するのが相当である。」
 この平成6年最高裁判決によれば、「相続分の割合による」とされており、
 AとBは、死亡保険金をそれぞれの法定相続分である2分の1ずつ取得することになります。
【死亡保険金と特別受益】
 共同相続人の中に、被相続人から遺贈を受けたり、生前に贈与を受けたりした者がいる場合に、
 この遺贈や生前贈与を考慮して遺産を分割しないと不公平になってしまいます。
 そこで、民法は、これらを「特別受益」として、相続分の計算上、
 特別受益を被相続人が相続開始時に有していた財産に加算して(これを「持戻し」といいます)、
 各相続人の相続分を算定すると規定しています(民法903条1項)。
 では、保険金受取人として死亡保険金を受け取った者がいる場合、
 保険金受取人だけが死亡保険金を受け取っているとして、
 死亡保険金を「特別受益」として持戻して計算することになるのでしょうか。
 これについて、最高裁判所平成16年10月29日判決は以下のように判示しました。
  「保険金受取人とされた相続人が……取得した死亡保険金は、
  民法903条1項に規定する遺贈または贈与に係る財産には
  当たらないと解するのが相当である。」
 最高裁は続けて、次のように判示しています。
  「もっとも、……保険料は、被相続人が生前保険者に支払ったものであり、
  ……保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が
  民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると
  評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、
  当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。」
 すなわち、他の共同相続人との関係であまりに不公平な場合には、
 例外として、特別受益に準じたものと考えて、持戻して計算すべきと判示しているのです。
【おわりに】
 死亡保険金を巡る議論は、まだまだあります。
 死亡保険金は、相続と密接に関連することもあり、相続人間で争いに発展することも考えられます。
 一度、ご自身の生命保険契約の内容をご確認してみてはいかがでしょうか。

敷金の返還

2012/12/28 金曜日 20:54

【はじめに】

 最近では、敷金0円、礼金0円の物件も多いですが、アパートやマンションの部屋を借りるときに、敷金を差し入れている方も多いと思います。

 今回は、部屋を退去するときに、返還を巡ってトラブルになることも多い敷金について、説明したいと思います。

 

【敷金とは】

 敷金とは、賃貸借契約を締結する際に、借主の貸主に対する債務の担保として、貸主に交付される金銭のことをいいます。

 敷金は、賃貸借契約が終了し、貸主に建物を明け渡したときに、借主に返還されるものです。ただし、借主が家賃を滞納していたり、入居中に設備を不注意で壊してしまったりした場合には、敷金から滞納家賃や設備の修理費が差し引かれて返還されることになります。

 

【礼金との違い】

  礼金は、賃貸借契約成立の対価として貸主に差し入れられる金銭です。建物等を貸してくれたお礼の意味合いをもつ金銭ですので、敷金と違って、貸主は、借主に礼金を返還する義務を負いません。

 

【敷金によって担保される借主の債務】

 敷金によって担保される借主の債務の一つとして、原状回復義務があげられます。敷金の返還に際しては、原状回復費用の負担をめぐって、トラブルがよく起こります。

 国土交通省住宅局作成の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」によれば、原状回復とは、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されています。

 借主が原状回復義務を負うといっても、建物を借りた当時の状態に戻す義務を負っているわけでありません。「通常の使用」による損耗(以下、「通常損耗」といいます)等については、借主が修繕費用を負担する必要はないのが原則です。通常損耗は、借主が通常の生活を送るにあたって避けられないものであり、これについての修繕費は、賃料にすでに含まれていると考えられているからです。

 

【検討】

   では、借主は、どのような場合に修繕費用を負担しなければならないのでしょうか。

 ①桐タンスを置いていた部分の床がへこんでしまった場合

    借りた部屋に家具を持ち込んで生活することは、ごく一般的なことであり、桐タンスを設置することは「通常の使用」と考えられます。

  したがって、故意に床をへこませたのではなく、桐タンスを設置したことだけによる床のへこみの修繕費用は、貸主が負担すべきものといえます。

 ②壁にポスターやカレンダーを貼った跡(日焼け跡)が残ってしまった場合

  紫外線によるクロスなどの変色(日焼け)は、自然現象によるもので、生活する上で避けることのできない性質のものです。また、壁にポスターやカレンダーを貼ることも、ごく一般的なことです。

  したがって、ポスターやカレンダーを貼った跡が残ったとしても、それは通常損耗と考えられ、その修繕費は貸主が負担すべきものといえます。

 ③エアコンを設置するために壁にビス穴を開けた場合

  日常生活を送るにあたり、エアコンを設置し使用することは、一般的なことであり、借主がエアコンを設置することは、「通常の使用」と考えられます。

  したがって、エアコンの設置によって生じたビス穴やその跡は、通常損耗と考えられ、その修繕費は貸主が負担すべきものといえます。

 ④カーペットにジュースをこぼしてシミを作ってしまった場合

  日常生活において、ジュースをカーペットにこぼしてしまうことは十分ありうることで、こぼしてしまうこと自体は、「通常の使用」の範囲内と考えられます。

  しかし、カーペットにシミができてしまったのは、ジュースをこぼした後の借主の処理が不十分であったことが原因です。したがって、シミの除去費用は、借主が負担すべきものといえます。

 

【特約がある場合】

   では、賃貸借契約中に、借主が通常損耗の修繕費用を負担する旨の特約(以下、「通常損耗補修特約」といいます)がある場合、借主は通常損耗の修繕費用を負担しなければならないのでしょうか。

 このような特約の有効性について、最高裁判所平成17年12月16日判決は、借主に通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、予期しない特別の負担を借主に課すことになるため、特約が有効とされるには、以下の①または②が必要であると判断しています。

① 少なくとも、借主が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されていること。

② 仮に、同範囲が賃貸借契約書では明らかでない場合には、貸主が口頭により説明し、借主がその説明を明確に認識し、それを合意の内容とした場合など、通常損耗補修特約が明確に合意されていること。

 

【おわりに】

 敷金は、借主が貸主に対して、賃貸借に関する債務を負っていなければ、全額返還されるものです。

   正当な額の敷金の返還を受けるためにも、ご自身が負担すべき修繕費用の範囲について、弁護士にご相談されることをお勧めします。