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弁護士法人柴田・中川法律特許事務所

愛知県豊橋市・静岡県浜松市の弁護士11名・弁理士2名が所属する法律特許事務所

本当の親子ではない!?

2013/12/31 火曜日 22:14

【はじめに】
 先日、「とある俳優Oとその前妻Kの長男が、DNA鑑定の結果、その俳優の遺伝上の子でないことが明らかになった。」という報道がありましたが、今回は法律上の親子関係について考えてみたいと思います。

【民法772条の推定】
 民法772条は、妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子であると推定し(同条1項)、また、婚姻成立の日から200日経過後または婚姻解消の日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定する(同条2項)と規定しています。この2つの推定を組み合わせると、婚姻中に懐胎したことを介して、婚姻成立の日から200日経過後または婚姻解消の日から300日以内に生まれた子が夫の子であることが推定されます。
 民法772条の推定がされた場合であっても、夫は、子が自身の子であることを否定することができますが(民法774条)、子の出生を知った時から1年以内に「嫡出否認の訴え」を提起し、これを主張しなければなりません(同法775条および777条)。
 民法がこのような規定を置いている目的は、法律上の父子関係を早期に確定し、子の身分関係を安定させることにあります。

【推定されない子】
 婚姻成立の日から200日以内に生まれた子は、民法772条の推定を受けませんので、子が生まれる直前に婚姻届が出した場合には、夫の子と推定されません。
 しかし、例えば、特定の記念日に提出する予定で婚姻届の提出を留保していたものの、実質的には、婚姻同様の生活実態を有する男女が、子が生まれる直前に婚姻届を出した場合、夫の子ではないことになってしまうとすると、生活実感と乖離してしまい、不都合です。
 この点につき、判例は、民法772条の適用は認めていませんが、内縁が先行しており、内縁中に懐胎した子が、婚姻成立の日から200日以内に生まれた場合、内縁の夫の子であると事実上推定する判断をしています(大審院連合部昭和15年1月23日判決<大審院民事判例集19巻54頁>)。

【推定の及ばない子】
 婚姻成立の日から200日経過後または婚姻解消の日から300日以内に生まれた子であっても、民法772条の推定を受けない場合もあります。
 すなわち、妻が子を懐胎すべき時期に、夫婦が長期間の別居をしていたとき、夫が刑事収容施設に入っていたときおよび夫が失踪していたとき等の明らかに夫の子ではないと解される場合には、民法772条の推定は及ばないといわれています。
 判例においても、妻が子を懐胎すべき時期に、既に事実上の離婚をして夫婦の実態が失われていた事例(最高裁判所第一小法廷昭和44年5月29日判決(昭和43年(オ)第1184号事件)<最高裁判所民事判例集23巻6号1064頁>)および夫が出征していた事例(最高裁判所第三小法廷平成10年8月31日判決(平成8年(オ)第380号事件)<判例時報1655号128頁>)につき、民法772条の推定が及ばないという判断をしています。

【父子関係を争う手続】
 夫が子との父子関係に疑問を抱いた場合、民法772条の推定が及ぶときには、前述のとおり嫡出否認の訴えによって争う必要があります。
 しかし、推定を受けない子については、「親子関係不存在確認の訴え」によって争うこととなります。親子関係不存在確認訴訟の訴えについては、嫡出否認の訴えのように、1年以内に訴訟提起しなければならないという制限はありません。
 このように、夫が子との父子関係を争う手続は、民法772条の推定が及ぶか否かによって異なることになります。
 ただし、嫡出否認の訴えにおいても、親子関係不存在確認の訴えにおいても、多くの場合、DNA鑑定を実施して父子関係の有無を判断することとなりますので、訴訟における実質的な審理内容に大きな差異があるわけではありません。

【性別変更との関係】
 最近、最高裁判所第三小法廷平成25年12月10日決定(平成25年(許)5号戸籍訂正許可申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件。以下、「本件決定」といいます。)は、民法772条の適用に関して、性別変更と民法772条の推定の関係につき、興味深い判断をしました。本件決定の事案は次のとおりです。
 X1は、性同一性障害者であり、性別適合手術を経て、性同一性障害者の性別の取扱いの特定に関する法律(以下、「特例法」といいます。)3条1項に基づき、女性から男性へ性別変更したうえで、女性であるX2と結婚しました。X2は、X1の同意を得て、X1以外の男性の精子提供を受けて人工授精によって懐胎し、翌年、Aを出産しました。そこで、X1は、AをX1とX2の婚姻関係に基づく子として出生届をY区長に提出しました。Y区長は、Aに民法772条の適用がないことを前提に、出生届の続柄欄等に不備があるとして、X1に補充訂正を催告しましたが、X1がこれに応じなかったため、Aの「父」欄を空欄、X2の長男とする等の戸籍の記載をしました。これに対し、X1とX2は、Aに民法772条の適用があるので、Aの戸籍につき、「父」欄を「X1」と記載する等の訂正をするよう求めて、審判を申し立てました。
 第一審と第二審は、特例法に基づく性別変更をするためは、生殖腺がないことまたは生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあることが要件となっており(特例法3条1項5号)、特例法に基づき性別変更したX1に生殖能力がないことが明らかであることを理由に、戸籍の記載の訂正を否定しました。
 これに対し、最高裁判所は、性別の取扱いの変更の審判を受けた者については、妻との性的関係によって子をもうけることはおよそ想定できないものの、一方でそのような者に婚姻することを認めながら、他方で、その主要な効果である772条の推定規定の適用を、妻との性的関係の結果もうけた子であり得ないことを理由に認めないとすることは相当でないとして、Y区長による戸籍の記載を違法であり、これを訂正することを許可しました。
 なお、この決定には、反対意見と補足意見がそれぞれ2つずつ付されています。5人の裁判官のうち2人が結論に反対しているのであり、民法772条の適用を認めたのは、際どい判断であったともいえます。
 このように判断が分かれた根本的な理由は、法律上の親子関係をどのように捉えているかという点についての解釈の違いにあると思われます。
 反対意見は、法律上の親子関係を、性的関係を決定的要素として判断し、前述の事例(妻が子を懐胎すべき時期に、既に事実上の離婚をして夫婦の実態が失われていた事例および夫が出征していた事例)につき、夫婦間における性的関係を欠くことを民法772条の推定を排除する本質的理由として捉えています。
 これに対し、多数意見は、法律上の親子関係を、性的関係のみでなく、婚姻関係の実態を考慮して判断し、前述の事例につき、婚姻関係の実態を欠くことを民法772条の推定を排除する本質的理由として捉えています。
 民法は、前述のとおり、法律上の父子関係を早期に確定し、子の身分関係を安定させることを目的として、同法772条以下の規定をおき、遺伝上は夫の子でない場合であっても、父子関係を生じさせることを想定しています。夫は、遺伝上の父子関係がないことを知った場合に、嫡出否認の訴えを提起することが義務付けられているわけではありません。このような民法の仕組みからすると、法律上の親子関係を判断するに際しては、性的関係または遺伝関係のみならず、子を受け入れて育てていく生活実態があるか否かをも考慮する方が、子の福祉を尊重する民法の趣旨に沿うものであると考えられ、多数意見の方が説得力があるように思います。
 ただし、いずれにしろ、法律上の親子関係を判断するに際し、遺伝関係が重要な要素となっていることに変わりはありません。

【戸籍の処理】
 ところで、民法772条の推定を受けない子の出生届は、どのように扱われるのでしょうか。
 実は、役所の窓口では、民法772条により推定されない子につき、夫の子として出生届を提出した場合、そのまま夫の子として受理することになっています。また、民法772条の推定の及ばない子を遺伝上の父親の子として出生届を提出した場合、この出生届を受理しないこととなっています。戸籍実務は、法律上婚姻中の妻が子を生んだ場合、夫の子としての届出しか認めていないのです。
 これは、役所の窓口には、推定されない子または推定の及ばない子といえるか否かを具体的に審査する権限がないからです。
 なお、本件決定の事案においては、役所が、民法772条の適用がないことを前提として、戸籍の処理をしました。性別変更の事実は、役所において把握し得るものであり、これにより、遺伝上の父子関係がなく、民法772条の推定の及ばない子であると判断できるとして、このような処理がなされたのでしょう。しかし、役所の審査権限に照らすと、そもそも民法772条の推定の及ばない子か否かを判断すること自体が許容されないのではないかという疑問が生じます。法律上の父子関係が必ずしも遺伝上の父子関係のみによって決定されるわけではなく、婚姻関係の実態も含めた総合的な事実評価に基づき決定されるのであり、戸籍の記載上から生殖能力の有無を判断できたとしても、役所には、民法772条の推定が及ばない子か否かを審査する能力がないと考えられます。
 民法772条の推定の及ばない子につき、遺伝上の父親の子として、戸籍に記載させたい場合は、どうすればよいのでしょうか。
 戸籍実務が、法律上婚姻中の妻が生んだ子につき、夫の子としての届出しか認めていない以上、一旦、夫の子として出生届を提出したうえで、訴訟によって、夫との父子関係を否定する旨の判決をとり、戸籍を訂正することとなるでしょう。

【おわりに】
 最後に、文頭で紹介した俳優Oとその前妻Kの子との父子関係は、法律上どうなるかにつき、触れておきます。
 詳細は知りませんが、OとKは、いわゆる「できちゃった婚」であり、OとKの長男は、婚姻成立の日から200日経過後に生まれた子ではない可能性があります。
 婚姻成立の日から200日経過後に生まれた子であった場合、民法772条の推定が働き、父子関係を争うには嫡出否認の訴えによる必要がありますが、出生の事実を知ってから既に16年以上が経過していますので、Oは、これによって父子関係を争うことができません。ただし、夫婦としての生活実態を欠いていたこと等により、民法772条の推定の及ばない子に該当する場合には、Oは、親子関係不存在確認の訴えにより、父子関係を争う余地があります。
 これに対し、婚姻成立の日から200以内に生まれた子であった場合、民法772条により推定されない子に該当し、Oは、親子関係不存在確認の訴えにより、父子関係を争う余地があります。
 しかし、Oをはじめとする関係者が、それぞれに否定しようとしなければ、依然として、Oと長男は親子として扱われていくことになるでしょう。裁判所が親子関係をどのように考えるか以前に、まず、Oをはじめとする関係者が親子関係をどのように考えるかが問題となるのです。

定期建物賃貸借

2013/1/31 木曜日 17:35

【はじめに】
 今回は、一定期間に限定して建物を賃貸する際の注意事項について、説明したいと思います。
【事例】
 Aさんは、5年間の海外勤務中、自宅を誰かに賃貸しようと考えています。ただ、不動産を賃貸すると、なかなか返してもらえないという話を耳にしました。5年後、再び自宅で暮らそうとしたら、自宅を返してもらえないという事態に陥らないか不安に思っています。Aさんは、どうすればよいでしょうか。
【民法の原則】
 賃貸借契約は、存続期間を定めた場合、その期間の満了により終了します。
 ただし、賃貸借の存続期間が満了した後、借主が借りている物の使用を継続しており、貸主がそのことを知っている場合には、貸主が異議を述べないと、従前と同じ条件で契約が更新されたものと推定されます(民法619条1項)。
 また、賃貸借契約は、存続期間を定めなかった場合、解約を申し入れてから一定期間(建物賃貸借については3箇月)で終了します(民法617条1項2号)。
 このような民法の原則によると、本事例の場合、Aさんは、存続期間を5年間と定めて自宅を賃貸すれば、5年後に自宅を返してもらえます。5年を経過したにもかかわらず、借主が自宅の使用を継続している場合、異議を述べることにより、契約の更新を防げます。
 また、存続期間を定めなかった場合、3箇月前に解約の申入れをすれば、自宅を返してもらえます。
【借地借家法の適用】
 建物の賃貸借については、原則として、借地借家法が適用されます。
 存続期間を定めた場合、貸主は、その期間満了の1年前から6箇月前までに、借主に対し、契約を更新しない旨を通知しなければ、従前と同じ条件で契約が更新されたものとみなされます(借地借家法26条1項)。
 また、存続期間を定めなかった場合、3箇月ではなく、6箇月前に解約の申入れをしなければなりません(借地借家法27条1項)。
 さらに、存続期間を定めた場合の更新しない旨の通知と存続期間を定めなかった場合の解約の申入れは、「正当の事由」が認められる場合でなければ、することができません(借地借家法28条)。つまり、存続期間の定めの有無に関わらず、「正当の事由」がないと、契約を終了させることができなくなります。
 「正当の事由」の有無は、貸主と借主のそれぞれが建物を使用する必要性に加え、建物の賃貸借に関する従前の経緯、建物の利用状況、建物の現況、さらに、いわゆる立退料の支払いの申出を考慮して判断されます(借地借家法28条)。
 これらの借地借家法の定めは、契約によって、借主に不利に変更することができません(借地借家法30条)。
 そのため、Aさんは、5年後に「正当の事由」が認められないと、自宅を返してもらえなくなってしまいます。「正当の事由」の有無は、貸主が建物を使用する必要性と借主が建物を使用する必要性を比較し、その他の事情を総合的に考慮して、相対的に判断されるものですから、Aさんが自宅を使用する必要性が高くても、借主が自宅を使用する必要性がより高ければ、「正当の事由」は認められません。これでは、Aさんは、安心して自宅を賃貸することができません。
【定期建物賃貸借】
 しかし、Aさんのように、一定期間に限って、建物を賃貸したいというニーズも少なからずあります。
 そこで、借地借家法は、存続期間の定めがある建物の賃貸借において、例外的に契約の更新がないこととできる場合についても定めています。
 すなわち、公正証書による等書面によって契約をする場合(要件①。借地借家法38条1項。)で、かつ、賃主が、予め、借主に対し、契約の更新がなく、期間の満了により契約が終了する旨を記載した書面を交付して説明をした場合(要件②。同条2項)には、契約の更新がないことを定められます。
 したがって、Aさんは、自宅を賃貸する際、存続期間を5年間と定めるのみでなく、契約書を作成し、かつ、予め、借主に対し、契約の更新がなく、期間の満了により契約が終了する旨を記載した書面を交付して説明をする必要があります。
【要件①の書面と要件②の書面の関係】
 ところで、要件①と要件②は、それぞれ書面を要求していますが、契約の更新がなく、期間の満了により契約が終了する旨を記載した契約書を作成して交付し、その説明をした場合、要件①と要件②の両方を満たしたことになるのでしょうか。
 最高裁判所第一小法廷平成24年9月13日判決(平成22年(受)第1209号建物明渡請求事件)は、この点につき、次のとおり判断しています。
 「(借地借家)法38条2項所定の書面は,賃借人が,当該契約に係る賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず,契約書とは別個独立の書面であることを要するというべきである。」
 最高裁判所は、その理由として、借地借家法38条が、更新がないことを借主に理解させるのみならず、紛争を未然に防止するため、予め書面を交付して説明することを要求しており、あえて1項とは別に2項を定めていることを挙げています。借地借家法38条の紛争予防の趣旨を重視し、2項の書面の交付については、借主の認識にかかわらず、画一的、形式的に取り扱うべきであり、契約書とは別個独立の書面を交付する必要があると考えたようです。
 したがって、Aさんは、契約書とは別個独立に、契約の更新がなく、期間の満了により契約が終了する旨を記載した書面を作成し、予め、借主に対し、これを交付して説明をする必要があります。
【おわりに】
 借地借家法は、不動産の借主を保護する目的で制定された法律ですので、借主に非常に有利な内容となっています。貸主に有利な特約を結んでも、無効と判断される場合もあります。
 そのため、自ら使用する目的で、賃貸中の不動産を返してもらおうと思ったものの、最初に賃貸借契約を結んだ時点で、借地借家法を意識した十分な検討がなされていなかったため、賃貸中の不動産を返してもらえないというケースは少なからずあります。
 後悔をしないために、契約を結ぶ段階において、予め弁護士に相談しておくことをおすすめします。