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弁護士法人柴田・中川法律特許事務所

愛知県豊橋市・静岡県浜松市の弁護士12名・弁理士2名が所属する法律特許事務所

老人の介護事故

1 はじめに
 我が国は、高齢化、それも近年は超高齢化の時代に突入しており、特別養護 老人ホーム、デイサービス施設その他の老人施設の入所者・利用者が著しく増加しています。
 これに比例するかのように、これら施設の内外において、入所者・利用者が関係する転倒、転落、誤嚥等の介護事故が増加する傾向にあります。
 介護事故が発生すると、その内容・程度によっては、介護事業者については、損害賠償責任または行政的責任(介護保険指定業者としての指定の取消等)を、介護担当職員については、損害賠償責任または刑事責任(業務上過失致死傷罪等)を問われることがあり、介護事業者および介護担当職 員にとっては、重大な問題を抱える危険性があります。
 そこで、今回は、介護事故の中でも頻度の高い施設内での転倒事故について、裁判例に即して考えてみることとします。
2 事故の内容
 社会福祉法人が運営するデイサービス施設の職員は、85歳の女性(要介護 度2、歩行には杖が必要)が、帰宅するに際しトイレに行くに当り、トイレまでは同行したものの、トイレ内への同行を拒否されたため、女性一人で杖を使用して便器まで歩かせたところ、杖が滑って転倒し、右大腿骨けい部内側骨折の傷害を負い、後遺障害が残り要介護度4となったというものです。
3 裁判所の判断
 裁判では、①施設に安全配慮義務(入所者・利用者が危険な状態に陥らないような配慮をするべき義務)違反があるか否か、②女性に過失があるか否か、あるとすればその割合が問題となっています。
(1) ①について
 裁判所は、女性が使用したトイレは、入口から便器まで距離が約1.8メートルあり、しかも、入口から便器までの壁には手摺がないため、女性が一人で杖を使用して歩行すれば、転倒することは十分に予想することができたのであるから、職員は、たとえ女性からトイレ内への同行を拒否されたとしても女性を一人で便器に向かわせるべきではなく、女性を説得して便器までの歩行を介護する義務を負担しており、この義務を尽くさず、女性を一人で歩行させた点に安全配慮義務違反があるとしました。
(2) ②について
 裁判所は、女性は、職員に対しトイレ内への同行を求めず、かえって同行を拒否してトイレのドアを閉めて一人で便器に向って歩いて誤って転倒したのであるから、女性にも事故の発生について過失があり、その割合は3割であるとしました。
4 本件から学ぶべき点
 私は、本件判決は、結論、理由ともに相当であると考えています。
 そこで、本件から、介護事業者および老人施設の入所者・利用者ともに学ぶべき点を指摘すると次のとおりであると考えます。
 まず、介護事業者および介護担当職員は、仮に、入所者・利用者が介護を拒否した場合であっても、安易に従ってはならず、入所者・利用者に対し、介護を受けないことによる危険性とそれを回避するために介護が必要であることを専門的観点から十分に説明して、介護を受けるよう説得すべきであるということです。
 次に、入所者・利用者も素直に介護担当職員の介護を受けることが自身の安全のためにも良いと考えるべきであるということです。
                                                                     以 上