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弁護士法人柴田・中川法律特許事務所

愛知県豊橋市・静岡県浜松市の弁護士11名・弁理士2名が所属する法律特許事務所

もし、自分の大切な人が逮捕されたら?

2014/4/7 月曜日 15:41

【事例】
Q1 夫が警察に逮捕されました。夫はこの後どうなってしまうのでしょうか。
1 今後の流れ
  逮捕されると、通常は警察署内にある留置場に留置され、外部との連絡ができなくなります。当然、仕事に行くこともできません。
  この期間は、最長72時間ですが、この間に検察官が勾留(より長期の身体拘束のことをいいます)を請求し、裁判官がこれを許可すると、さらに最長20日間も出られなくなることがあります。実務上、23日間拘束されることは頻繁にあります。
  身柄拘束中は、警察官や検察官による取調べが行われたり、自宅や勤務先会社での捜索、参考人の取調べなどといった捜査が行われたりします。
  この拘束期間中、検察官により起訴(裁判にかけること、と考えてもらって構いません)されると、釈放されたり、保釈が認められたりする場合を除き、裁判終了まで(事件の内容によるため、どれくらいの期間か、一概にいうことができません)出ることはできないことが多いです。当然、実刑判決が下されれば、拘束が解かれることはありません。
2 面会について
  夫が逮捕された場合、妻が夫に警察署内等で会うことができる場合があります。しかし、その場合でも、①平日の日中の15分~20分程度であること ②人数制限(1回の面会で2~3名まで) ③警察官が同席し会話を聞かれるといった条件があります。さらに、勾留による身体拘束に加え接見(面会のことと考えてください)等禁止の決定がなされると、面会できるのは弁護士だけとなり(実務上、接見等禁止決定がされている事案は多いです)。
Q2 弁護士を依頼した場合、私たちの力になってくれるのでしょうか。
  逮捕されると、前記1のように拘束が続くこととなります。
  逮捕された後直ちに弁護士が選任されれば、検察官による長期の身体拘束の請求を阻止することができる可能性があります(事案によっては、勾留が続く場合も当然あります)。仮に勾留請求がされて裁判官が許可した場合でも、勾留決定に対する不服申立てを行うことで、身体拘束から解放される可能性があります。
  万が一、勾留が決定されたとしても、不起訴処分を得るために被害者との示談や、接見禁止決定がされている場合には接見禁止の一部解除申立てや準抗告を行う等弁護活動を行います(必ずしも功を奏するとは限りません)。
  このように、弁護士を選任し、弁護士が被疑者のためさまざまな弁護活動を行うことで、被疑者にとっても家族にとっても良い結果をもたらす場合があるといえます。
Q3 弁護士を依頼するにはどうすればいいでしょうか。
  あなたに知り合いの弁護士がいて、弁護士費用を支払うことができる場合は、本人や家族が弁護士(私選弁護人)に依頼することができます。
  知合いの弁護士がいない場合や弁護士費用を支払えない場合でも、当番弁護士制度や被疑者国選制度等を利用することで、弁護士の相談や弁護活動をしてもらうことができます。
Q4 私選弁護人と国選弁護人はどう違うのですか。
1 まず、Q3とも関連しますが、弁護士費用が異なってきます。一般的に、私選弁護人は国選弁護人よりも費用が高いといえます。
  この点は、私選弁護人を選任するうえでデメリットとなります。
2 また、弁護人が付く時期が異なります。
  国選弁護人は、起訴された後(被告人国選)付く場合と、起訴される前の被疑者の段階で(被疑者国選)付く場合の2パターンがあります。被疑者国選の場合は、勾留決定後に付くことが多いです。
  他方、私選弁護人は、刑事ドラマなどでよく見る任意同行や逮捕・勾留された直後などから付くことが可能ですから、勾留自体を阻止するために弁護活動を行うことができます。
  Q1で述べたように、逮捕され身体拘束を受ければ、外部との連絡や仕事に行くことはできなくなり、社会的地位も失われる可能性があります。拘束期間が長ければ長いほど、損害は重大なものとなりえます。
  そのため、私選弁護人を選任することは、早期に弁護活動を行うことができる点でメリットであるといえます。
Q5 Q4に関連して、国選弁護人は、報酬が安いため真剣に弁護をしてくれないと聞きましたが本当でしょうか。
  この質問は本当によくありますが、私選弁護人であろうと国選弁護人であろうと、弁護活動に大きく違いが出ることは基本的にありません。
  しかし、Q2で述べたような示談交渉を弁護士が積極的に行うとか、留置されている警察署内等に何度も行き、本人を励ましたり、就労先に何度も連絡する等ということがなかなか難しいということはあると考えています。
 逮捕され、身体拘束が長期化すればするほど、大きなトラブルに巻き込まれる可能性は高くなります。早期の身体拘束解放のためにも、このような場合には直ちにお近くの法律事務所にご相談されることをお勧めします。

高年齢者雇用安定法の改正について

2014/3/10 月曜日 13:36

1 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下、「高年齢者雇用安定法」)が改正され、2013年4月から、継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みが廃止されることとなったことをご存知でしょうか??

2 まずは、改正前の高年齢者雇用安定法について見てみましょう。

 少子高齢化が進む現代社会において、高齢者の労働力を効率的に活用していくことが不可欠となりました。また、老齢基礎年金の支給開始年齢が65歳からであることおよび老齢厚生年金の報酬部分の支給開始年齢も段階的に引上げられることとなったことから労働者が65歳までの収入を確保することが必要不可欠となりました。
 そこで、改正前の法律では、65歳未満の定年制度を定めている企業に対して、(ⅰ)定年の引上げ、(ⅱ)定年の廃止、(ⅲ)継続雇用制度(希望する労働者に対し、勤務を延長するまたは再雇用する制度)の導入のいずれかの措置を講ずることを義務づけていました。
 ここでポイントとなることは、(ⅲ)継続雇用制度は、一定の手続きを踏めば、継続雇用制度の対象者を限定することが可能ということです。
 すなわち、企業としては、継続雇用制度を導入し、対象者の範囲を限定すれば、65歳まで雇用すべき労働者を減少させることができました。

3 今回の改正
 今回の改正では、この一定の手続きで対象者を限定するという仕組みを廃止したのです。
 すなわち、いずれにしても企業は、希望する労働者に対し、65歳までの雇用を義務付けられることとなりました。
 なお、この規定には経過措置が設けられています。完全に廃止されるのは、2025年4月1日ということになっています。

4 実務上の留意点
 継続雇用制度は、勤務延長制度または再雇用制度のいずれかの制度のことです。継続雇用制度を導入する場合の実務上の主な留意点を検討してみましょう。
(1) 勤務延長制度
 勤務延長制度とは、定年に達した者を退職させることなく、原則として同一労働条件のまま雇用を延長することです。
 したがって、同一条件で勤務することとなるので、賃金等も変更することができません。そのため、この制度の導入にあたり、給与体系の見直しや役職定年制を設けるなどの勤務内容の見直し等の処遇体系の見直しが必要不可欠となってきます。
(2) 再雇用制度
 再雇用制度とは、定年に達した者がその定めに従っていったん退職した上で、新たな労働契約を締結して再び雇用される制度のことです。
 そのため、労働条件は再雇用時に見直されることとなりますので、企業の実態に合わせて柔軟に賃金、雇用形態、労働時間等を決定することができますので、企業にとっては利点の多い制度ではないでしょうか。
 しかし、勤務条件を決定するにあたっても、いくつかの留意点があります。
 ①まずは、雇用形態です。
 派遣契約にする場合には、労働者派遣法により、派遣期間の制限の受けないものを除いて、原則1年となっていますので、継続して5年間同じ派遣先に勤務させることはできません。
 ②次に、雇用期間です。
 再雇用制度で雇用する場合には、期間の定めのある雇用契約にする場合が多いと思います。この場合で、5年を超える場合には、無期労働契約に強制的に転換する可能性があることに注意してください(詳細は、私の前回のコラムを参照して下さい。)。
 ③そして、労働時間です。
 労働時間は、労働基準法の範囲内で、原則として当該労働者に応じた労働時間を決定できますが、労働時間の長短によって社会保険の適用等が変わってくる可能性があります。

 継続雇用制度を導入するにあたっては、ほかにも留意すべき事項が発生してくると思います。導入される企業の方で、お困りの方は、お近くの弁護士に相談してみるとよいでしょう。

職務中に事故を起こしてしまった

2014/1/22 水曜日 19:30

【事 例】
 私(Aさん)は、とある会社で営業の仕事をしています。
 先日、会社の車を利用して営業に出かけたのですが、次の営業先での対応を考えすぎてしまい、運転の注意が散漫になり、車をガードレールに衝突させてしまいました。
 幸いにも周りに人はおらず、怪我人は出ませんでしたが、会社の車が壊れてしまいました。
 事故を受け、会社は、車を修理に出しました。
 暫くして、私は、会社から、「修理費用として50万円掛かった。」、「車両保険には入ってない。」、「Aさんが注意して運転をしていなかったのだから修理費用を負担してもらう。」などと言われました。
 また、会社は、後日、私に対し、「ガードレールの修理費用の請求がきたから20万円払っておいたよ。」、「保険を使うと等級が下がる。等級が下がって保険料が上がるのは困るから保険は使わない。」、「Aさんのミスなのだから、Aさんがガードレールの修理費用を払って下さい。」などと言われました。
 私のミスで事故を起こした以上、修理費用を支払わなければならないのでしょうか。

【検 討】
 一般的に、他人の者を壊した場合、所有者に対して修理費用を支払う必要があります(民法709条)。
 本件の場合、会社の車などをAさんが壊し、会社がAさんに代わって修理費用の支払いをしている以上、Aさんは、会社に対して修理費用の支払いをしなければならないようにも思えます。

 
 しかし、使用者は、被用者を用いて利益を上げているにもかかわらず、被用者のミスについては一切責任を負わないとすると、公平に反します。そのため、被用者のミスで事故が起こった場合にも、使用者は全ての責任を被用者に押しつけることは認められません。これを報償責任の原則といいます。

 判例においても、使用者から被用者に対する損害賠償および求償金の請求に関して、「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。」(最判昭和51年7月8日民集30巻7号689頁)として、損害賠償および求償金の請求額を4分の1に制限しました。
 

 具体的にどのくらい制限されるかは、上記判例で述べられているように、諸般の事情を考慮することになりますが、使用者の被用者に対する請求が大きく制限されることも多いです。過去の裁判例の中には、被用者の過失の程度や従前の取扱い等を理由として会社から従業員に対する損害賠償の請求を認めなかったものもあります(京都地判平成23年12月6日交民44巻6号1520頁)。

【おわりに】
 もともと使用者が被用者よりも優位な地位にあることが多く、これに加え、被用者自身が事故を起こしてしまったという責任を感じ、損害を全て支払わなければならないと思いがちです。
 しかし、必ずしもそのようなことはなく、上述のとおり、使用者から被用者に対する損害賠償や求償金の請求が制限されることが多いです。制限の程度については、諸般の事情が考慮されるため、一度お近くの弁護士に相談されることをおすすめします。

本当の親子ではない!?

2013/12/31 火曜日 22:14

【はじめに】
 先日、「とある俳優Oとその前妻Kの長男が、DNA鑑定の結果、その俳優の遺伝上の子でないことが明らかになった。」という報道がありましたが、今回は法律上の親子関係について考えてみたいと思います。

【民法772条の推定】
 民法772条は、妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子であると推定し(同条1項)、また、婚姻成立の日から200日経過後または婚姻解消の日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定する(同条2項)と規定しています。この2つの推定を組み合わせると、婚姻中に懐胎したことを介して、婚姻成立の日から200日経過後または婚姻解消の日から300日以内に生まれた子が夫の子であることが推定されます。
 民法772条の推定がされた場合であっても、夫は、子が自身の子であることを否定することができますが(民法774条)、子の出生を知った時から1年以内に「嫡出否認の訴え」を提起し、これを主張しなければなりません(同法775条および777条)。
 民法がこのような規定を置いている目的は、法律上の父子関係を早期に確定し、子の身分関係を安定させることにあります。

【推定されない子】
 婚姻成立の日から200日以内に生まれた子は、民法772条の推定を受けませんので、子が生まれる直前に婚姻届が出した場合には、夫の子と推定されません。
 しかし、例えば、特定の記念日に提出する予定で婚姻届の提出を留保していたものの、実質的には、婚姻同様の生活実態を有する男女が、子が生まれる直前に婚姻届を出した場合、夫の子ではないことになってしまうとすると、生活実感と乖離してしまい、不都合です。
 この点につき、判例は、民法772条の適用は認めていませんが、内縁が先行しており、内縁中に懐胎した子が、婚姻成立の日から200日以内に生まれた場合、内縁の夫の子であると事実上推定する判断をしています(大審院連合部昭和15年1月23日判決<大審院民事判例集19巻54頁>)。

【推定の及ばない子】
 婚姻成立の日から200日経過後または婚姻解消の日から300日以内に生まれた子であっても、民法772条の推定を受けない場合もあります。
 すなわち、妻が子を懐胎すべき時期に、夫婦が長期間の別居をしていたとき、夫が刑事収容施設に入っていたときおよび夫が失踪していたとき等の明らかに夫の子ではないと解される場合には、民法772条の推定は及ばないといわれています。
 判例においても、妻が子を懐胎すべき時期に、既に事実上の離婚をして夫婦の実態が失われていた事例(最高裁判所第一小法廷昭和44年5月29日判決(昭和43年(オ)第1184号事件)<最高裁判所民事判例集23巻6号1064頁>)および夫が出征していた事例(最高裁判所第三小法廷平成10年8月31日判決(平成8年(オ)第380号事件)<判例時報1655号128頁>)につき、民法772条の推定が及ばないという判断をしています。

【父子関係を争う手続】
 夫が子との父子関係に疑問を抱いた場合、民法772条の推定が及ぶときには、前述のとおり嫡出否認の訴えによって争う必要があります。
 しかし、推定を受けない子については、「親子関係不存在確認の訴え」によって争うこととなります。親子関係不存在確認訴訟の訴えについては、嫡出否認の訴えのように、1年以内に訴訟提起しなければならないという制限はありません。
 このように、夫が子との父子関係を争う手続は、民法772条の推定が及ぶか否かによって異なることになります。
 ただし、嫡出否認の訴えにおいても、親子関係不存在確認の訴えにおいても、多くの場合、DNA鑑定を実施して父子関係の有無を判断することとなりますので、訴訟における実質的な審理内容に大きな差異があるわけではありません。

【性別変更との関係】
 最近、最高裁判所第三小法廷平成25年12月10日決定(平成25年(許)5号戸籍訂正許可申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件。以下、「本件決定」といいます。)は、民法772条の適用に関して、性別変更と民法772条の推定の関係につき、興味深い判断をしました。本件決定の事案は次のとおりです。
 X1は、性同一性障害者であり、性別適合手術を経て、性同一性障害者の性別の取扱いの特定に関する法律(以下、「特例法」といいます。)3条1項に基づき、女性から男性へ性別変更したうえで、女性であるX2と結婚しました。X2は、X1の同意を得て、X1以外の男性の精子提供を受けて人工授精によって懐胎し、翌年、Aを出産しました。そこで、X1は、AをX1とX2の婚姻関係に基づく子として出生届をY区長に提出しました。Y区長は、Aに民法772条の適用がないことを前提に、出生届の続柄欄等に不備があるとして、X1に補充訂正を催告しましたが、X1がこれに応じなかったため、Aの「父」欄を空欄、X2の長男とする等の戸籍の記載をしました。これに対し、X1とX2は、Aに民法772条の適用があるので、Aの戸籍につき、「父」欄を「X1」と記載する等の訂正をするよう求めて、審判を申し立てました。
 第一審と第二審は、特例法に基づく性別変更をするためは、生殖腺がないことまたは生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあることが要件となっており(特例法3条1項5号)、特例法に基づき性別変更したX1に生殖能力がないことが明らかであることを理由に、戸籍の記載の訂正を否定しました。
 これに対し、最高裁判所は、性別の取扱いの変更の審判を受けた者については、妻との性的関係によって子をもうけることはおよそ想定できないものの、一方でそのような者に婚姻することを認めながら、他方で、その主要な効果である772条の推定規定の適用を、妻との性的関係の結果もうけた子であり得ないことを理由に認めないとすることは相当でないとして、Y区長による戸籍の記載を違法であり、これを訂正することを許可しました。
 なお、この決定には、反対意見と補足意見がそれぞれ2つずつ付されています。5人の裁判官のうち2人が結論に反対しているのであり、民法772条の適用を認めたのは、際どい判断であったともいえます。
 このように判断が分かれた根本的な理由は、法律上の親子関係をどのように捉えているかという点についての解釈の違いにあると思われます。
 反対意見は、法律上の親子関係を、性的関係を決定的要素として判断し、前述の事例(妻が子を懐胎すべき時期に、既に事実上の離婚をして夫婦の実態が失われていた事例および夫が出征していた事例)につき、夫婦間における性的関係を欠くことを民法772条の推定を排除する本質的理由として捉えています。
 これに対し、多数意見は、法律上の親子関係を、性的関係のみでなく、婚姻関係の実態を考慮して判断し、前述の事例につき、婚姻関係の実態を欠くことを民法772条の推定を排除する本質的理由として捉えています。
 民法は、前述のとおり、法律上の父子関係を早期に確定し、子の身分関係を安定させることを目的として、同法772条以下の規定をおき、遺伝上は夫の子でない場合であっても、父子関係を生じさせることを想定しています。夫は、遺伝上の父子関係がないことを知った場合に、嫡出否認の訴えを提起することが義務付けられているわけではありません。このような民法の仕組みからすると、法律上の親子関係を判断するに際しては、性的関係または遺伝関係のみならず、子を受け入れて育てていく生活実態があるか否かをも考慮する方が、子の福祉を尊重する民法の趣旨に沿うものであると考えられ、多数意見の方が説得力があるように思います。
 ただし、いずれにしろ、法律上の親子関係を判断するに際し、遺伝関係が重要な要素となっていることに変わりはありません。

【戸籍の処理】
 ところで、民法772条の推定を受けない子の出生届は、どのように扱われるのでしょうか。
 実は、役所の窓口では、民法772条により推定されない子につき、夫の子として出生届を提出した場合、そのまま夫の子として受理することになっています。また、民法772条の推定の及ばない子を遺伝上の父親の子として出生届を提出した場合、この出生届を受理しないこととなっています。戸籍実務は、法律上婚姻中の妻が子を生んだ場合、夫の子としての届出しか認めていないのです。
 これは、役所の窓口には、推定されない子または推定の及ばない子といえるか否かを具体的に審査する権限がないからです。
 なお、本件決定の事案においては、役所が、民法772条の適用がないことを前提として、戸籍の処理をしました。性別変更の事実は、役所において把握し得るものであり、これにより、遺伝上の父子関係がなく、民法772条の推定の及ばない子であると判断できるとして、このような処理がなされたのでしょう。しかし、役所の審査権限に照らすと、そもそも民法772条の推定の及ばない子か否かを判断すること自体が許容されないのではないかという疑問が生じます。法律上の父子関係が必ずしも遺伝上の父子関係のみによって決定されるわけではなく、婚姻関係の実態も含めた総合的な事実評価に基づき決定されるのであり、戸籍の記載上から生殖能力の有無を判断できたとしても、役所には、民法772条の推定が及ばない子か否かを審査する能力がないと考えられます。
 民法772条の推定の及ばない子につき、遺伝上の父親の子として、戸籍に記載させたい場合は、どうすればよいのでしょうか。
 戸籍実務が、法律上婚姻中の妻が生んだ子につき、夫の子としての届出しか認めていない以上、一旦、夫の子として出生届を提出したうえで、訴訟によって、夫との父子関係を否定する旨の判決をとり、戸籍を訂正することとなるでしょう。

【おわりに】
 最後に、文頭で紹介した俳優Oとその前妻Kの子との父子関係は、法律上どうなるかにつき、触れておきます。
 詳細は知りませんが、OとKは、いわゆる「できちゃった婚」であり、OとKの長男は、婚姻成立の日から200日経過後に生まれた子ではない可能性があります。
 婚姻成立の日から200日経過後に生まれた子であった場合、民法772条の推定が働き、父子関係を争うには嫡出否認の訴えによる必要がありますが、出生の事実を知ってから既に16年以上が経過していますので、Oは、これによって父子関係を争うことができません。ただし、夫婦としての生活実態を欠いていたこと等により、民法772条の推定の及ばない子に該当する場合には、Oは、親子関係不存在確認の訴えにより、父子関係を争う余地があります。
 これに対し、婚姻成立の日から200以内に生まれた子であった場合、民法772条により推定されない子に該当し、Oは、親子関係不存在確認の訴えにより、父子関係を争う余地があります。
 しかし、Oをはじめとする関係者が、それぞれに否定しようとしなければ、依然として、Oと長男は親子として扱われていくことになるでしょう。裁判所が親子関係をどのように考えるか以前に、まず、Oをはじめとする関係者が親子関係をどのように考えるかが問題となるのです。

生命保険と相続

2013/11/29 金曜日 18:50

【はじめに】
 個人年金保険を含めれば、およそ9割の世帯が加入していると言われる生命保険。
 実際、多くの方が生命保険契約を締結しておられると思います。
 では、実際に生命保険契約の被保険者が亡くなった場合に、遺族はどのように死亡保険金を取得するのでしょうか。
 今回は、生命保険と相続の関係についてご説明します。
【事例①】
 夫Xには、妻Aと子Bがいます。Xは、自らを被保険者とし、死亡保険金を2500万円とする生命保険契約を締結し、
 その受取人をAに指定しました。Xが死亡した場合、Bは、Aに対して、
 死亡保険金の半額1250万円を請求できるのでしょうか。
 この事例のように、保険契約者(X)が相続人中の特定の者(A)を保険金受取人と指定した場合について、
 最高裁判所昭和40年2月2日判決は、次のように判示しました。
  「保険金受取人として……相続人たるべき個人を特に指定した場合には、
  右請求権は、保険契約の効力発生と同時に右相続人の固有財産となり、
  被保険者(兼保険契約者)の遺産より離脱している」
 最高裁は、特定の者が保険金受取人として指定された場合には、
 死亡保険金は保険金受取人の財産であって、相続財産ではないと判示しました。
 したがって、【事例①】の場合では、死亡保険金2500万円は、保険金受取人であるAの財産ですので、
 Bの請求は認められません(ただし、後述の「特別受益」に注意する必要があります)。
【事例②】
 事例①において、Xが保険金受取人を被保険者(X)の「相続人」と指定していた場合、
 死亡保険金はどのように扱われるのでしょうか。
 先ほどの昭和40年最高裁判決に基づけば、保険金受取人が「相続人」と指定された場合、
 死亡保険金は、相続人の固有の財産となります。
 したがって、【事例②】においては、死亡保険金2500万円はAとBの固有の財産となり、
 相続の対象とはなりません。
 しかし、AとBの固有の財産となるといっても、
 具体的にAとBは、死亡保険金をいくらずつ取得するのでしょうか。
 この保険金受取人を被保険者の「相続人」と指定した場合について、
 最高裁判所平成6年7月18日判決は、次のように判示しています。
  「保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の『相続人』と指定した場合は、
 特段の事情のない限り、右指定には、相続人が保険金を受け取るべき権利の割合を
 相続分の割合によるとする旨の指定も含まれているものと解するのが相当である。」
 この平成6年最高裁判決によれば、「相続分の割合による」とされており、
 AとBは、死亡保険金をそれぞれの法定相続分である2分の1ずつ取得することになります。
【死亡保険金と特別受益】
 共同相続人の中に、被相続人から遺贈を受けたり、生前に贈与を受けたりした者がいる場合に、
 この遺贈や生前贈与を考慮して遺産を分割しないと不公平になってしまいます。
 そこで、民法は、これらを「特別受益」として、相続分の計算上、
 特別受益を被相続人が相続開始時に有していた財産に加算して(これを「持戻し」といいます)、
 各相続人の相続分を算定すると規定しています(民法903条1項)。
 では、保険金受取人として死亡保険金を受け取った者がいる場合、
 保険金受取人だけが死亡保険金を受け取っているとして、
 死亡保険金を「特別受益」として持戻して計算することになるのでしょうか。
 これについて、最高裁判所平成16年10月29日判決は以下のように判示しました。
  「保険金受取人とされた相続人が……取得した死亡保険金は、
  民法903条1項に規定する遺贈または贈与に係る財産には
  当たらないと解するのが相当である。」
 最高裁は続けて、次のように判示しています。
  「もっとも、……保険料は、被相続人が生前保険者に支払ったものであり、
  ……保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が
  民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると
  評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、
  当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。」
 すなわち、他の共同相続人との関係であまりに不公平な場合には、
 例外として、特別受益に準じたものと考えて、持戻して計算すべきと判示しているのです。
【おわりに】
 死亡保険金を巡る議論は、まだまだあります。
 死亡保険金は、相続と密接に関連することもあり、相続人間で争いに発展することも考えられます。
 一度、ご自身の生命保険契約の内容をご確認してみてはいかがでしょうか。